ノウフルは、医療業界における収益改善のノウハウをまとめた情報誌で、全国2万社ほどの医療業界の経営者の方々にお読みいただいている。
本誌のコンセプトは「経営ノウハウフル掲載」であり、一般的な新聞や業界紙が小規模医療機関向けに技術ノウハウを掲載しているのに対し、ノウフルは、すべての規模の事業者向けに経営ノウハウを専門に提供している。
ノウハウ(情報)が基本となる情報誌なので、ここでは本誌の創刊背景と銘打って、どのようにこの「情報」と関わっていくかを三つの観点から説明しよう。
売り上げを作る情報
経営戦略とは、下の図にあるように、事業・組織・財務の一貫性によって成り立っている。
これらをさらに分解すると、下の図のようになる。この中で、事業とは、端的に言えば「誰に」・「何を」・「どのように」売るのかという領域を指している。
また、事業・組織・財務を照らし合わせて言えば、事業戦略とは売り上げを作る領域であり、組織戦略とは売り上げを支える領域、そして財務戦略とは売り上げを管理する領域である。
この三つが外部環境とうまくはまったときに、企業戦略がうまく機能する。ノウフルでは、このうちの事業領域、つまり売り上げを作る領域を中心にノウハウを提供していく。さらに、この売り上げを作る領域を因数分解すると、下の図のようになる。
売り上げとはすなわち、集客数×契約率×商品単価であり、商品とは、主に提供する医療サービスや商品について指している。ついては、集客力・提案力・商品力という三つをノウフルの3大テーマとして扱うこととする。
4P戦略に沿った情報
現在、医療業界は4割が赤字経営であると言われている。多くのクリニックが類似した診療内容を提供している中で、独自の強みや特徴を明確に打ち出せず、集客に伸び悩む医院も少なくないだろう。
その背景としては、日本の人口減少が原因に挙げられる。次の図は日本の人口推移を示したものであるが、人口は2004年12月にピークアウトし、減少の一途をたどっている。これにより、美容医療や矯正歯科など、比較的若年層が主要ターゲットとなる分野では市場そのものが縮小しているのが現実だ。
さらに、日本は長らく続く実質賃金の低下や、物価の上昇により家計の可処分所得に伸び悩んでいる。特に若年層や子育て世代では、美容や予防的な医療にかけられる予算が限られがちであり、自費診療は贅沢品とみなされて後回しにされる傾向もあるだろう。そもそも、これらは構造的な問題であり、集客においては業界にかかわらず日本全体の課題でもあることも示している。
このような中で、当然ながら、自費診療を増やしていくためどのような取り組みを行うべきかとの戦略が必要なのだが、単に目先の自費診療を増やすだけではなく、未来の業界を見据えて早期にさまざまな取り組みを行うことが勝ち筋となる。この集客改善については、下の「マーケティングの4P」の考え方が重要だ。4Pとは、下の図にあるように、商品戦略・価格戦略・ルート戦略・プロモーション戦略をまとめた考え方である。
集客といっても、Web広告やインスタグラム、ホームページやマーケティングオートメーションなどのプロモーション領域を扱うだけでは、単なるプロモーションであり、マーケティングとは言えない。我が国において、このプロモーションをマーケティングと誤訳するケースがあるが、大きな間違いである。周りにマーケッターを自称する人間がいれば、商品開発ができるのか、価格決定ができるのか、立地戦略や出店戦略を組めるのかを聞いてみてほしい。それらができなければマーケッターを語る資格はなく、集客を任せるべきではない。
プロモーションなどは業者に任せていればいいのである。さらに言えば、かのドラッガーは「マーケティングの究極の目的は販売活動を不要にすること」と説いている。販促と意訳されるプロモーションを販売活動と同意とするならば、それは本来不要な要素であり、本質的な価値はないのである。むしろ大事なのは、集客を増やす上で商品力をどう上げていくのか、価格戦略をどう展開していくのかという点である。
あわせて、相談会やオンライン診療などのルート戦略は、どのように展開していくのかについても深く議論しないと、本質的な集客の改善には至らない。営業の領域もプロモーションの一つであるが、営業の改善を行ったところで、人口減少という外部環境を踏まえると、事業強化の観点では全く意味がない。集客が機能してからでなければ、営業改善は意味をなさないのである。
我々は前者のプロモーション止まりのマーケティングを「狭義のマーケティング」、 4Pを踏まえたマーケティングを「広義のマーケティング」と定義し、広義のマーケティングをシン・マーケティングとして流布に向けた活動を行っている。このシン・マーケティングこそが集客に必要なのである。
次世代経営者を育てる情報
三つ目は、次世代経営者を育てる情報である。CMOという言葉をご存じだろうか。CMOとは、チーフ・マーケティング・オフィサーの略語であり、4P戦略を扱える前述のシン・マーケティングにおける責任者を指す。
4Pの領域は、「誰に・何を・どのように売るか」であるため、まさに下の図にあるように、事業戦略全体に関わる領域である。
ついては、CMOはすなわち事業責任者そのものなのである。しかしながら、下の図にあるように、日本とアメリカのCMOの数は圧倒的に差が開いている。
これほどまでに日本は、マーケティングに対する関心が低く、これが日本の衰退を招く大きな要因の一つとなっている。また、下の図を見ていただきたい。このグラフは、経営者の年代別に見た後継者の選定状況を表している。
50代の経営者においては、たった25%しか後継者が決まっておらず、60代・70代においても、半分以上の経営者は後継者を決めていないか、仮に決まっていても了承を得ていない状態である。また、決めているという経営者においても、その後継者に自分の後を継がせるほどの能力があるのかどうかについて自信を持っている経営者は少ないのではないだろうか。
これらは医療業界においても同様にいえるだろう。そもそも、後継者となる次世代の院長に必要な要素は何だろうか。下の図をご覧いただきたい。この図は、4P戦略における各責任者の能力を示したものである。
集客の責任者においては、医療サービスの価格戦略、あるいは広告戦略などを組み立てることができない。Web広告やホームページ、インスタグラムなどのSNS戦略は得意としていても、これらは繰り返しお伝えしているように単なるプロモーターであり、それらに詳しいところで経営の素質があるとは言えない。この観点で言えば、営業に関わる責任者は論外である。
ただ、今から次期経営者として育成していけば、まだ集客大恐慌時代に滑り込みで間に合う形となろう。現状でCMOとしての育成体制を敷いていないのであれば、先ほどの図の通り、どの担当者もスタートラインは大差がない。ということは、極論を言えば、営業責任者を差し置いてインスタグラムの担当者がCMOとして次代の経営者になることもありえるのである。
これから事業承継をしていく上では、事業責任者の役割、つまり商品戦略や価格戦略、ルート戦略、販促戦略をしっかりマネジメントできる次期経営者の育成が必要であり、これが現経営者である院長に与えられた最後の使命なのである。以上を踏まえ、ノウフルは四つのお約束をしたい。
まず、落とし込みやすい情報を提供する・売り上げを作る情報を提供する・4P戦略に沿った情報を提供する・次世代経営者を育てる情報を提供する。この四つである。