編集を終えて
現在、日本の医療機関の経営状況は全体的にあまり良いとは言えず、日本にある病院の4割が赤字経営である。超高齢化に伴い、医療費の抑制が進められていることもあり、病院の経営は今後さらに厳しい状況になることが予測される。医療従事者の人材不足も深刻だ。増え続ける患者に対して医療に従事できる医師や看護師の数が不足しており、需要と供給のバランスが取れていない。過重労働を強いられる医療従事者も多く、貴重な人材の休職や離職も大きな懸念となっている。
もちろん、これまでも医学部の定員増加など、人材不足解消のための施策がとられてきた。厚生労働省の資料によると、医師の労働時間を週55時間程度に制限した場合でも、現役医師の人数は約36万人程度である。もちろん、医師の総数が増えても、全ての診療科で人材不足が解消するとは限らないという点からも、今後も苦しい状況が続く可能性が高い。
このような中で、医療機関がどのような取り組みを行うべきかとの観点においては、当然ながら自費診療を増やしていく必要がある。しかし、単に目先の自費診療を増やすだけではなく、未来の業界を見据えて早期にさまざまな取り組みを行うことが勝ち筋となるのである。そのような観点では、下の図にあるようなPESTという市場環境変化のフレームワークが重要である。
それぞれPolitics （政治）・Economy （経済）・Society （社会）・Technology （技術）の頭文字をとったものである。本稿では、この四つの視点に則り、2030年に自費診療で勝ち残るためにどのようなことを押さえるべきかについて、コラム形式で伝えていきたい。
心不全パンデミックに向けたヘルステックについて
今回は、2030年における医療業界の注目トピックスとして、心不全パンデミックに向けたヘルステックについて見ていきたい。
まずは、デジタルバイオマーカーについて説明していく。デジタルバイオマーカーとは、疾患の状況をデジタルデバイスで確認する取り組みを指している。身に着けているデバイスで身体の状況などを確認し、デジタルバイオマーカー開発や臨床研究などに活かすことが可能だ。
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デジタルバイオマーカーの特徴としては、測定に関する負担が少ない点が挙げられる。また、長時間、任意のタイミングで測定することも可能であり、従来よりも得られるバイオマーカーが増えるメリットもある。
さらに、デジタルバイオマーカーのポイントについても見ていこう。デジタルバイオマーカーの臨床実験は、従来の主観的な試験ではなく、客観的なデータに基づいた臨床試験により、その質と評価が上がるのがポイントである。また、今後のオンライン診療においても、デバイスを活用した診療が広がっていくため、非常に有効な施策となる見込みだ。
例えば、下の図をご覧いただきたい。この図は、自分の顔を撮影するだけで、脈拍数や呼吸数などがわかる、スマートフォンを活用した事例を示したものである。
また、下の図は、スマートフォンで収集した症状とまばたきの我慢の時間から、ドライアイの症状を分類できるという事例である。まばたきの回数や我慢できる秒数をカメラで計測し、ドライアイ診療で広く用いられている12項目のアンケートで精度を上げることが可能だ。
最後に
以上、今回は、2030年における医療業界の注目トピックスとして、心不全パンデミックに向けたヘルステックについて見てきた。
このように、今後はデジタルバイオマーカーを活用した取り組みが広がっていくため、今のうちから注視しておくことが重要であろう。一人でも多くの医療従事者の方々にとってノウフルが貴重な情報源になればそれ以上のことはない。