マーケティングにおける選択と集中
今回は、マーケティングにおける「選択と集中」というテーマについて考察したいと思う。まず、この仕事をしているとよく相談を受けるのが、マーケティングにおいて下記のどちらが適切なのかということである。一つは強みを尖らせる、つまり、自院のUSPにさらに磨きをかけ、差別化を図るという考え方である。
もう一つは、強みを増やすということである。つまり、自院のUSPに限界があると判断し、新しいUSPを追加し、総合力で勝負するという考え方である。このどちらがいいのであろうか。結論から言えば、マーケティングは「選択と集中」である点で前者が正しい。後者のような両方取ろうという考え方は、ことわざで言えば「虻蜂取らず」、あるいは「二兎を追う者は一兎をも得ず」となってしまう。
大塚家具の戦略転換がわかりやすい事例であろう。大塚家具は従来、創業者の大塚勝久氏が会員制による接客重視の高級路線で戦略的に展開していた。しかし、娘の大塚久美子氏に社長が交代すると、ニトリなどの低価格なサービスが市場拡張していることを踏まえ、会員制のまま大衆層にマーケットを拡大していった。そうして虻蜂取らずとなった結果、経営不振に陥り、事業売却に至ったのである。
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この事例からわかるように、マーケティングという観点においては、一つのUSPに絞って強化することが重要なのである。これを戦略的に示した理論が二つある。一つ目が「ランチェスター戦略」、二つ目が「競争戦略」である。従来のビジネスモデルの多くが、広いカテゴリーにリソース(人・物・金)を分散させるのに対し、ランチェスター戦略では、カテゴリーを厳選し、リソースを一点に集中させる。
リソースを一点に投下することで、結果的に市場シェアを最大化することが可能になる。こちらの事例として当てはまるのがHIS(エイチ・アイ・エス)である。HISは創業当時、大手がひしめく中で学生向け旅行代理店と銘打ち、ニッチ市場を攻めることに成功した。
このランチェスター戦略には三つの特徴がある。一つ目は「規模の経済性」である。対象が細分化されているため、医療サービス自体のラインナップを絞った形での発注により、サービス提供の効率を維持することができる。
次に「提供の経済性」である。エリアを限定することで、移動コストなどを含めた診療効率が上がり、医療スタッフの対応業務の効率化や、診療体制の工夫などによる経済効果が期待できる。三つ目が「認知の経済性」である。エリアシェアを上げることで、診療実績そのものがマーケティング効果を発揮し、自院の事例が複数あれば結果的に自院の認知度が高まるということである。例えば、HISでは学生の6人に1人がHISを選ぶということで特定シェアで15%以上を維持し、「認知の経済性」によって成功した。
次に、「競争戦略」である。競争戦略は、マイケル・ポーターが提唱した競争優位を築くための考え方である。同業他社がひしめく業態の中で、いかにしてポジショニングを取り、競合に打ち勝っていくのかを「コストリーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」の三つに分類し、企業が成長するための戦略を提唱した。
この中でポーターは、「コストリーダーシップ」か「差別化」か「集中」かという考え方を示したが、そのどれでもない領域を「スタック・イン・ザ・ミドル」と表現し、「中途半端は儲からない」と、経済的な理論で説いたのである。この競争戦略からも、「選択と集中」の重要性がうかがえる。
また、ポーターの理論には「エフィシェント・フロンティア」というものが存在する。これは、「コストリーダーシップ」と「差別化」の両方を踏まえたサービスである。つまり「安くて良い」を実現したビジネスモデルであり、ユニクロや丸亀製麺などがこのエフィシェント・フロンティアに該当する。それ以外にも、近年ではスシローやサイゼリヤなどが、エフィシェント・フロンティアに到達し、低価格・高品質なサービスを展開している。
このような事例を踏まえると、あるべき医療サービスの開発の流れは下の図のようになる。
まず、市場調査などを行いながら、USPが本当に正しいのかを、市場に受け入れられているのかを踏まえて検証する。その上で、「選択と集中」によってUSPを強化しながら、組織全体の経費を見直すことで、コストダウンを徹底する。その結果、エフィシェント・フロンティアに到達する。これが組織の医療サービス開発において求められることである。
繰り返しになるが、マーケティングは「選択と集中」が重要であり、それができないことは「虻蜂取らず」であり、「二兎を追う者は一兎をも得ず」という結果になるのである。
最後に
以上、今回は、医療業界の重要テーマとして「マーケティングにおける選択と集中」について見てきた。
医療業界のマーケティング戦略においては、自院の強みを絞って強化することが重要である。そのためには、自院のUSPについて分析する過程も含め、正しい方向でマーケティングに取り組んでいるのかを見直す必要がある。一人でも多くの医療従事者の方々が、今一度、自院の戦略について考える機会を持つために、ノウフルが貴重な情報源になればそれ以上のことはない。
引用