
歯科業界の現状
今年の歯科医院や医療法人の実績を見てみよう。その中で印象的であるのが、従来は強みを持っていた低価格・標準的な診療を中心に展開していた歯科医院の不調である。かつては、低価格診療を展開する医院だけが伸びており、それ以外の歯科医院は苦戦するという逆の現象が見られた。
しかし、今年の実績を見ると、これら低価格型の医院が苦戦しているように見受けられる。これはなぜなのだろうか。結論から言えば、材料費の高騰やインフレによる付加価値負担の上昇が挙げられる。安いだけでは満足できない患者層が増えているのだ。まさに価格重視から価値重視へ、患者の選択基準がインフレによって切り替わっていると言えるだろう。

その結果、インフレや原価高騰で治療費が上がった分、診療の付加価値を高めなければいけないという状況になっている。

わかりやすく示すと、下の図のようになる。元々ハイクラスの人たちは、こだわりが高く先進的な歯科医院に行っていた。また、ミドルクラスの人たちは地域密着型の歯科医院に行き、比較的年収の低い層は、そこまでこだわりなく低価格の歯科医院に行っていたのだ。

このような中で、インフレになるとどうだろうか。ハイクラスの層はそのままであるが、ミドルクラスの層も「金額が高くなるならこだわりたい」となり、先進的な歯科医院に行くように変化したのだ。そして、先進的な歯科医院に行っている患者には、先進的治療についての説明や営業がしづらい状況になっている。
また、低年収の層は、価格が障壁となり、お試し価格やキャンペーン契約にばかり流れてしまうのだ。そのため、地域密着の一般歯科医院や低価格診療を中心にしてきた歯科医院は、今後の淘汰対象になるであろう。

では、歯科医院はどのようにして診療価値を上げていくべきなのだろうか。代表的なものは、トータルコストと投資対効果である。

トータルコストとは、初期の治療費だけではなく、長期的にかかる再治療のリスク軽減や予防プログラムによる将来の医療費を削減し、トータルで見た時に価格が安いとの見せ方である。投資対効果とは、例えばインプラントや矯正治療によって口腔機能を維持することで、長期的に健康寿命を延ばし、生活の質を高められるといった訴求である。このように、短期的な視点ではなく、長期的な視点で患者に診療を提案をすることが求められているのである。
最後に
以上、今回は、歯科業界の重要テーマとして「インフレと集客難に克つ」について見てきた。
今後インフレがさらに進む中で、歯科医院の提案も、短期的な視点ではなく長期的な視点での提案に切り替えることで、物価高にも対応できる体制を築いていくことが重要である。自院の経営を守るべく、業界の状況を正確に理解する上で、一人でも多くの歯科業界従事者の方々にとってノウフルが貴重な情報源になれば、それ以上のことはない。