今医療業界で何が起こっているのか?
現在、医療業界は4割が赤字経営であると言われている。多くのクリニックが類似した診療内容を提供している中で、独自の強みや特徴を明確に打ち出せず、集客に伸び悩む医院も少なくないだろう。
その背景としては、日本の人口減少が原因に挙げられる。次の図は日本の人口推移を示したものであるが、人口は2004年12月にピークアウトし、減少の一途をたどっている。これにより、美容医療や矯正歯科など、比較的若年層が主要ターゲットとなる分野では市場そのものが縮小しているのが現実だ。
さらに、日本は長らく続く実質賃金の低下や、物価の上昇により家計の可処分所得に伸び悩んでいる。特に若年層や子育て世代では、美容や予防的な医療にかけられる予算が限られがちであり、自費診療は贅沢品とみなされて後回しにされる傾向もあるだろう。そもそも、これらは構造的な問題であり、集客においては業界にかかわらず日本全体の課題でもあることも示している。
なぜ御社の集客が減り続けているのか?
このように人口減少を背景とした恐慌となれば、集客をいかに増やすのか、が重要な論点となる。そのような中でコロナ以降、集客の勝ち組と負け組が明確に分かれている。では、負け組となる要因は何であろうか。それは、マーケティング戦略ができていないからに他ならない。
まず、マーケティング戦略とは、次の4つのPから成る「4P戦略」によって構成される。
一つ目が、プロダクト(Product)であり、商品戦略そのものである。顧客ニーズや課題に応じてどのような商品・サービスを提供するのか、差別化要因は何なのかを検討することである。次にプライス(Price)である。いわゆる価格戦略のことで、競合の価格や提供できる価値などから判断して、最適な価格を決めることである。
三つ目のプレイス(Place)と言われるルート戦略は、相談会やオンライン診療など顧客を呼び込む場所を指す。そして最後のプロモーション(Promotion)戦略は、広告などのプロモーション施策をどのように行うかを検討する領域である。これらを図に表すと下のようになる。
プロモーションは、Web広告からホームページへの誘導、あるいはチラシ・テレビCM、最近流行りのSNSなども指す。そして、ルートは前述したように、、相談会やオンライン診療などを指す。商品・価格は、デザインや気密性・断熱性などの自社商品の優位性(以降USP)となる。
マーケティング戦略の落とし穴
このような中で、マーケティング戦略ができていない企業は、次の二つの問題をはらんでいるケースが多い。
①プロモーションしか見ていない
プロモーションは、前述したように、Web広告やホームページ、SNS、チラシ、テレビCMなど、顧客に認知をしてもらう飛び道具のようなものだ。これらを重視した取り組みを行っている企業は多いが、下の図にあるように、成果のインパクトしては最も低いものである。
4Pの観点で言えば、下の図にあるように、商品戦略や価格戦略、ルート戦略が重要であり、プロモーションは戦術でしかない。つまり、このような中でプロモーションばかり強化しても、成果は出ないのである。
多くのマーケッターと言われる方々は、このプロモーションしか見ていないケースが多い。マーケッターを自称している方が周りにいれば、「自医院の商品において市場ニーズは何か」「競合の強みは何か」「価格戦略はどのように展開すべきか」「ルート戦略はどう考えるべきか」などを聞いてみると良い。
これらの問いに対して適切な回答が返ってくれば、立派なマーケッターであるが、あくまでプロモーション領域に留まっているのであれば、その人はプロモーターでしかない。
また、下の図にあるように、ドラッカーは「マーケティングの理想は販売を不要にすることである」と説いている。販売をプロモーションと意訳するならば、いかにマーケティング戦略において、プロモーションの価値が低く、サービス戦略や価格戦略が重要であるかがお分かりいただけるのではないだろうか。
また、一般的には、プロモーションで成果を出す限界は、商品力の1・1〜1・3掛けしかないと言えば分かりやすいのではないだろうか。プロモーションで成果が出ているのは、土台に商品力があるからこそなのである。
このような中で、なぜプロモーションに特化した取り組みが多いのかといえば、このプロモーション領域こそがビジネス化しやすい領域であり、下の図にある通り多くのプレイヤーが存在するからである。
しかし、彼らのようなプロモーター企業は、自社の領域でしか最適な提案をしない。例えばWEB制作会社は、「そこのエリアはチラシが有効なのでチラシの比率を上げよう」とは言わないし、SNSの運用会社は「インスタグラムよりも営業力を強化すべき」とは言わない。結果的にプロモーション過多となり、成果が出ないということになるのである。
②商品戦略を軽視している
次に、商品戦略について見ていこう。次の図は、多くの企業が陥っている商品戦略を軽視した考え方である。
プロダクトアウト型については、「良いものを作れば売れる」という考え方であるが、市場のニーズを押さえずに良いものが作れるとの考えは幻想であり、捨てるべきである。次に、プロダクト放置型については、「今まで売れてきたから市況が回復すればまた売れる」という考え方だが、例えば、10年前20年前に流行った施術が今も同じようなボリュームで需要があるかというとそうではない。市場のニーズは大きく変遷するため、常にサービスを見直さなければならないのである。
パッケージ依存型については、「あの医院が成功している」「あの事例が成功している」と飛びついたところで、他の医院の事例は他の市場があるため、その商圏のニーズから逆算して上手くいっているだけであり、同じ戦略が自医院の商圏に合うかは別である点を忘れてはいけない。
もし現在、自医院の契約が増えているのであれば、間違いなく商品設計や価格設計を踏まえた4P戦略が正しく機能しており、契約が減っているのであれば、4P戦略が機能していないということになる。プロモーションに限定した営業強化も集客強化も、単なるドーピングでしかないのである。以上の内容を踏まえると、下の図のようになる。
本来、集客改善に必要なマーケティングは、このような4P戦略が重要になってくるが、多くの医院はマーケティングを狭義のマーケティングとして捉え、プロモーションだけ押さえている。
しかしながら、広義のマーケティングを行わなければ、集客改善は困難なのである。我々はこのような広義のマーケティングを「シン・マーケティング」という言葉で定義し、流布活動と共に改善に向けた取り組みを行っている。まさしく多くの医院で求められるのは、このシン・マーケティング戦略の策定に他ならない。
ケーススタディ
少し概念的でわかりづらい点もあったので、実際の事例を見てみよう。下の図は兵庫県のA社の事例である。
Aクリニックでは年間700契約を獲得しており、皮膚科・美容外科としての医療サービスを提供している。また、初来院者への契約割引キャンペーンなどを定期的に行って集客をしており、プロモーションは主にSNS広告からの来院が多い。このような状況下で、Aクリニックにはどのような問題があるのだろうか。下の図に沿って解説していく。
まず一つ目は、市場ニーズを見ていないことにある。Aクリニックの商圏内で自費診療の検討層にアンケートをとった結果、この商圏で一番ニーズが高い医療サービスはAクリニックがあまり大きく宣伝に出していない治療や施術であった。
これらを踏まえた際に、他の医院がやっているから自医院も同じ分野で宣伝やキャンペーンを打とうと考えると、市場のニーズと合わず、マーケティングはうまくいかないケースが多い。二つ目は、ベネフィット訴求ができていない点である。ベネフィットは顧客にとっての効果・効能を指す。高気密・高断熱は単なる特徴であり、ベネフィットではない。
ベネフィットは「顧客を主語にする」ことで表現できる。例えば、低侵襲・高効果は「医院を主語にした表現」であり、特徴でしかない。この場合、顧客を主語にすれば、低侵襲・高効果は「(顧客が)効果を感じやすい」「(顧客の)身体への負担が少ない」などのベネフィットとなる。これらのベネフィットを訴求しなければ、顧客に自医院の強みは届かない。単に低侵襲・高効果のみを打ち出しているだけでは、マーケティングとしては型落ちと言えるだろう。
三つ目は、集客決定要因が訴求できていないことだ。例えば、低侵襲・高効果をUSPと表現した際、集客の決め手になる要素と契約の決め手になる要素に分けられる。
低侵襲・高効果といったUSPにおいては単体での集客が難しく、「集客決定要因」にはなりにくい。アフターフォローなども同様である。これらは逆に営業時に訴求すると刺さるため、「契約決定要因」と表現する。この場合、医療サービスの内容や価格など、集客につながる別のUSPを集客決定要因として設定しながら、来場した際に、低侵襲・高効果など契約決定要因を訴求することが重要なのである。
四つ目は、価格訴求が他社に負けていることである。シン・マーケティングにおいて、商品戦略同様、価格戦略は非常に重要な要素であるが、多くの医院が他社の価格戦略における、初値の設定や値引きの調整などを踏まえた取り組みを行っていない。
Aクリニックにおいても、「競合がどのような価格を顧客に訴求しているのか」「初値はどれぐらいなのか」「着地金額となる終値はどれぐらいなのか」「値引きをどの程度行っているのか」などを明確にした上で、価格戦略の設定を行わなければならないのである。
たとえば、Aクリニックでは「低侵襲かつ高効果」というUSP(独自の強み)を打ち出しているにもかかわらず、実際には一般的な広告での集客にとどまっており、訴求の内容と手法が一致していない。
仮に、「即効性のある医療機器施術」「高成分のものを使用した効果の高い治療」「身体に負担の少ない治療」などがUSPであれば、それを実感できる割引体験やデモンストレーション付きの個別カウンセリングなど、より適切な導線設計が必要です。単に資料説明やカウンセリングだけで「高効果」を伝えようとしても、訴求力としては不十分になってしまうのです。
集客顧問の取り組み
以上、A社の取り組みをケーススタディーで見てきたが、ここからは、弊社が集客顧問®というサービスにてどのような取り組みを行うかを論じていきたい。
サービス内容を端的に説明すれば、前述した「シン・マーケティングを再構築すること」に他ならない。下の図にあるように、本取り組みでは、まずUSPを明確にする、あるいは尖らせることに重点を置く。そのために、この図にあるような、自社分析・競合分析・顧客分析をまず行う。
また、自医院の分析においては、主要メンバーで自社の強みの洗い出しを行い、併せてオーナーに座談会やインタビューを行いながら、なぜ自医院で契約したのかなどインタビュー内容を分析していく。
競合分析については、実際の店舗で覆面営業員が顧客として接客を受け、強みを明確化する。顧客分析については、商圏内の市場調査を行い、どのようなニーズがあるかを明確にしていく。
そして、これらを土台に、USPをブランド・ステートメントというツールに落とし込み、強みを明確にしながら尖らせていくのだ。
そして、最終的にこれらをプロモーションの領域に落とし込んでいくのだが、領域は、下の図のように、ホームページや営業ツール・情報誌・看板・テレビCM・Web広告・SNS・メルマガなどさまざまである。
ここまで設計した上でプロモーション全般に落とし込みをすることで、一貫性を持った「シン・マーケティング戦略」ができあがるのである。
これらについては、弊社では1年間と時間をかけて丁寧に行っている。USPの整理とブランド・ステートメントの作成までを3ヶ月で行い、集客領域と営業領域を共に3ヶ月ずつかけて改善していく流れだ。そして、最終的に数字の上がり幅を見ながら成果測定をしていく形で進めていく。
なお、最終的な数字の改善については、下の図にあるように、さまざまな経営データを取りながら、集客面・営業面での数字の伸び方や課題点の分析を行っている。弊社では、このような形で、集客改善を行っている。
なぜノウフルなのか?
弊社は存じ上げないが、これに近い取り組みを行っているコンサル会社もあるかもしれない。しかしながら、さまざまな医療サービス会社がある中で、シン・マーケティング戦略の領域を網羅している企業は少ないのではないか。下の図は、外部コンサル、サポート企業をカテゴリー分類したものである。
例えば、FC本部型については、FC本部のスーパーバイザーであるため、商品戦略が自社商品のみになっている。スピンアウト型は、成功した医院の一部門のスピンアウトであるため、成功医院のサービスから逆算したマーケティング戦略しか構築できない。事例・視察型については、他社の事例の横流しがメインであるため、マーケティング戦略も成功事例に沿った内容でしかできない。
また、販促型については、ウェブ制作会社などを指すが、そもそもプロモーション領域の会社であるため、シン・マーケティング領域については全く見ない。代行型は、そもそも業務を代行するだけの会社であるため、シン・マーケティング全体を見るはずもなく、さらには自医院の資産にはならない。以上のように、一般的なマーケティングにそもそも触れていない、あるいは触れてはいるものの、シン・マーケティング全体にアプローチできていないという企業は多い。このような中で、ノウフルの集客顧問®は、4Pの観点でシン・マーケティング戦略を立案する点が他社との違いである。
CMOの育成
また、このプロジェクトには、裏ゴールが設定されている。下の図は、経営者の年代別に見た後継者の選定状況を表したものである。
この図のように、多くの経営者には後継者が決まっていない。または決まっていても、どのような要素に期待してリーダーを選定すべきかが定まっていないケースが多い。このような中で我々は、次世代のリーダーにはCMOが重要だと考えている。
CMOとは、先ほどのマーケティングの4P戦略、つまりシン・マーケティング戦略を扱うリーダーを指すが、下の図にあるように、日本とアメリカを比較すると、日本にはCMOが1%以下との状況になっているのだ。これは、日本の中小企業の経営者が、CMOを兼業していることで生じる問題である。そのため、今後の次世代の後継者には、CMOの要素が必須だと言えるだろう。
しかしながら、昨今の集客の責任者はプロモーションの管理に留まり、営業責任者においても商品戦略・価格戦略が弱いケースが多い。このような状況下において、シン・マーケティング戦略を次世代リーダーとして構築することが本プロジェクトの裏ゴールである。
このような取り組みによって、ケースによっては、営業責任者ではなく、プロモーションに知見があるインスタグラムの女性担当者が次世代のリーダーになることも十分にあり得るのである。どちらにせよ、従来の医療業界は、営業力があれば経営者になれたが、これからは圧倒的な集客難時代が来るため、営業力ではなく集客力、すなわちシン・マーケティング戦略の立案力が必要と言えるだろう。
最後に
以上、集客顧問®についてご紹介したが、前半で解説した業界市況に関しては、いささかマクロ要素が強く、ピンとこない方も多いかもしれない。しかし、これ以上契約を落とした場合、今の社員や社員の家族を守れるのか。市況はついにそのような事態まで考えなければならないところに来ているのである。
茹でガエルの法則という言葉をご存じだろうか。「カエルは、いきなり熱湯に入れると驚いて逃げ出すが、常温の水に入れて徐々に水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、最後には死んでしまう…」
保険診療とは異なり、自費診療は基本的に「予約制・オーダーメイド型」のサービスであり、在庫リスクをほとんど抱えない。つまり、設備投資や人件費といった固定費の最適化によって、事業継続性を高めることが可能だ。実際、コロナ禍では来院患者数が一時的に減少したものの、人件費などのコストを見直すことで経営を維持したクリニックは少なくない。
しかし、そのような応急処置を続けるだけであれば、いつか茹でガエルのように生き残るタイミングを失ってしまうであろう。今こそ抜本的にシン・マーケティング戦略の観点で事業を見直し、集客を復活させることで、今後に向けた生き残りを目指していただきたい。